西郷隆盛も愛読!人生を切り拓く「志」の力とは? 〜『言志四録』に学ぶ〜
幕末の英雄、西郷隆盛が愛読したことで知られる『言志四録(げんししろく)』。これは、美濃国岩村藩出身の儒学者、佐藤一斎(さとう いっさい)が晩年に書き残した語録集です。全部で1,133条からなり、『言志録』『言志後録』『言志晩録』『言志耋録』の4つの書物で構成されています。
佐藤一斎の人生観はもちろん、学問への向き合い方、人との付き合い方、そしてリーダーシップ論など、彼の奥深い思想や教えがぎゅっと詰まっているんです。佐藤一斎が42歳から82歳までの40年間かけて綴った、まさに「自己を磨き、人生を豊かにするためのヒント集」と言えるでしょう。西郷隆盛だけでなく、佐久間象山や吉田松陰といった名だたる志士たちにも大きな影響を与えました。
今回は、そんな『言志四録』の中から、特に私たちが日々の生活や学びの中で役立つ『言志録』六条にある「学問をするには」という教えにスポットを当ててご紹介しますね。
『言志録』六条に学ぶ「志」の重要性
この六条には、学問に取り組む上で最も大切なことについて書かれています。まずは原文と現代語訳を見ていきましょう。
現代語訳
学問をするには、まず志(目標)を立てることが必要である。しかし、志を立てるにあたっては、外からの強制によるものであってはならない。あくまでも、自分自身の心の中に芽生えた決意が出発点である。
佐藤一斎は、学問を始める上で、その成功を左右する最も大切な要素が「立志(りっし)」だと説いています。ここで言う「立志」は、漠然とした目標設定とはちょっと違います。それは、「自分の人生をかけて何を成し遂げたいか」「どんな人間になりたいか」という、深く自分と向き合って見つけ出す決意なんです。この「立志」こそが、学問のスタート地点だと教えてくれています。
だからこそ、「立志」をしっかり持つことで、学びの方向性がハッキリしますし、もし困難にぶつかったとしても、心の支えになって、頑張り続けるための大きな原動力になるんです。佐藤一斎は、「この『立志』こそが、人が学びたいという気持ちを湧き上がらせ、学びを進めていくパワーになるんだ」と力強く述べています。
「本心」から湧き上がる志こそが大切
さらにこの教えは、「立志」が外部からの強制や、「やらなければならない」という義務感からくるものであってはならないと強調しています。本当の「志」は、誰かに与えられるものではなく、自分自身の「本心(ほんしん)」から自然と湧き上がってくるものでなければならないのです。これは、学問が単に知識を頭に詰め込むことではなく、「自分らしい生き方」を追求する、心からの営みだということを示唆しています。
「志を立てなさい!」という単なる命令では意味がありません。その「志」が、もしも誰かに見せるためだったり、一時的な流行に乗ったものだったりしたら、それは「本心」から出たものではないので、長く続いたり、深いものになったりすることはありません。
佐藤一斎が「立志こそ、人間の学びの意欲を沸き起こさせ、学びを推進していくパワーとなる」と語ったように、この「本心」に根ざした「立志」こそが、表面的な学びを、自分自身を大きく変えるような深い探求へと質的に変えるきっかけとなるのです。
この考え方は、現代の教育やキャリアを考える上でも、内側から湧き上がる「やる気」がいかに大切かを、なんと江戸時代末期にはすでに説いていたことに驚きますよね。本当の成長は、自分の心の奥底から湧き出る情熱と、確かな目的意識によってこそ達成される、という普遍的な真理を教えてくれていると言えるでしょう。
現代でも通じる「志」の教え
「立志」の教えは、外部の流行や他人の評価に流されることなく、自分の心から湧き上がる「志」を立てることが、充実したキャリアを築き、自分らしい人生を送るために不可欠であることを教えてくれます。志を立てることは、まさに自分自身の羅針盤として、とても重要なことなんです。
また、「立志」が学びの推進力となることは、困難や挫折に直面した際に、その「志」が私たち個人の「レジリエンス(回復力)」を高める要因にもなります。本心に基づいた「志」は、一時的な感情や外的な状況に左右されにくく、たとえ逆境に立たされても目標を見失わず、立ち直る力を与えてくれます。この「持ちこたえる力」は、変化の激しい現代社会で、私たちが自分自身を成長させ続け、柔軟に適応していく上でなくてはならない資質と言えるでしょう。
この考え方は、現代の心理学で言う「GRIT(グリット:やり抜く力)」や「Purpose-driven life(目的志向の人生)」といった概念と驚くほど共通しています。佐藤一斎は、およそ200年も前に、現代の自己啓発や心理学が提唱する重要な要素を「志」という概念の中にすでに統合していたのです。彼の洞察の深さと、その教えの普遍性には本当に頭が下がります。
佐藤一斎の「立志」の教えは、現代の教育にも通じるものがあります。今の教育は、以前のような知識の詰め込みだけでなく、思考力や判断力、表現力を育む方向へと変わりつつあります。「志」を育む教育は、単に学力を向上させるだけでなく、生徒たちが自らの人生を主体的に切り開く力を養うことにも繋がっていくはずです。
まとめ
佐藤一斎が書き残した『言志録』の中から、六条の教えをご紹介しました。この六条では、学問をする上で最も重要なことは「立志」であり、それは誰かから強制されるものではなく、自分自身の「本心」から湧き出るべきものだ、という学びの根本原理を、簡潔かつ力強く説いています。困難な状況に陥ったとしても「志」があれば、目標を見失わず、心の支えになり、立ち直って学びを続けることができるんです。
現代の私たちは、インターネットやSNSの普及によって、常に膨大な情報や他者の価値観に触れています。情報に流されたり、他者の価値観に惑わされたりすることもあるかもしれません。そんな時代だからこそ、「立志」が重要になり、「志」を持って自分自身の「本心」をしっかり持つことが必要不可欠です。佐藤一斎の教えは、ただの古い知識としてではなく、私たち一人ひとりがより充実した、意味のある人生を築くための普遍的な指針として、今もなお輝きを放っているのではないでしょうか。
あなたの「志」は何ですか? それは「本心」から湧き出ていますか?
最後までお読みいただきありがとうございました。

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